小説

倍と二倍

登場人物 ミスリィー 20歳 レイラ 9歳 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ねえ、ねえ、ミスリィー、あのね、レイラ、ちょっと、ちょっと知りたいから、ちょっと教えて欲しいんだけど」 「え、やあよ、今忙しいんだから」 「ちょっとでいいから、ちょっとですむの…

子供を笑顔にする魔法の言葉

登場人物 ミスリィー 19歳 レイラ 8歳 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 「ねえ、ミスリィー、ミスリィー」 部屋に駆け込んで来たレイラは、ただいまをさしおいて執拗にミスリィーの注意を引いた。 「外から帰ってきたなら手を洗いなさいよ」 「うん!」 レイラは…

震えの保管

びわ味のソフトアイスを買ってやな、明石海峡と明石海峡大橋を一望できる席に座ったら、無性に写真を撮りたくなった、と遠くを見る目でいった彼は、今は普通のソフトアイスを相手にしていた。カメラも撮影の腕もないから、すぐにどうでもよくなったけどな、…

猫も杓子も

私が書斎の掃除を万事のこりなく終えて台所と居間の手入れをこちらは手抜きにて仕上げた後にコーシーなど淹れて書斎に戻ってみれば、風を通しておくために開け放していた窓から入り込んだのか黒猫が一匹通販で買ったロッキングチェアの上に座して前足で机の…

洞窟物語物語〜血塗られた聖域〜

地響きの中核へ向かいながらも地響きから遠ざかる感覚。圧力でひしゃげて開かなくなってしまった扉のある小屋の、壊れた床穴から飛び降りて宙を泳いでいるためか、彼の足下はおぼつかない――はたまた、地の底の重圧を感じてなのか? 黒い風が吹く。不安はある…

俺の赤い星

面白い漫画やアニメって、美味しそうな食事シーンが多いよね、と彼はいった。僕の脳裏には「モニュ、モニュ」と肉を食べるグラップラーの姿や骨付きの肉にかぶりつくジブリスターズの面々がよぎる。彼もその辺りを語るだろうと思って、相づちを打ちながら話…

断片:今日読み返した一段落

レイラは強引にマキシマム*1を先行させ、その後ろを進むよう心がけていた。若い馬の尻を押し込む彼女の手は広かった。その指先があのぼんぼんの目をえぐったのだったな、と僕は思い返していた。時々信じられなくなる。この明朗な娘が僕の目の前で人を殺めた…

断片:自明性の彼方に

彼が部屋に入ると早速靴下を脱ぎ始めた。そして靴下を手につけて私をテーブルへ案内してくれた。私は彼と一緒にテーブルについて、向かい合った。彼は神経質そうに眉間にしわを寄せて痙攣的に動かしていた。彼はうっかりと脱ぐのを忘れていた帽子を脱いで席…