ワンピの敵役賛美――アーロンの正当な賞金額は?

 名探偵の陰には名犯人がいる、というような言葉を知ったのはいつの日だったか。
 バトルマンガものの屈指のバトルには魅力的な敵キャラがいる。
 そのような偉大な敵役に拍手を!


 『ONE PIECE』は普通の人間ばかりが隆盛を極めている世界ではない。非人間として最初に登場した強敵は鮫の魚人。アーロンは手にすくい取った水を浴びせるだけで(その強靱な腕力ゆえに)ゾロとサンジを退けた。魚人は人間の十倍の力を持つという設定によって雑魚の一人も侮れない、と思わされたのはごくはじめの頃ばかりではあったが(ルフィ達の強さを前にすれば大した問題ではなかった)、私がアーロンを名敵役だと認め、後の敵キャラと強さの面で比較してしまうのはその設定の影響が大きいと思う。
 アーロンは種族主義を唱え魚人こそ至高の種族だと信じている。このため人間に対して容赦のない徹底した支配を行い続け、ナミを欺きもした。こうやって悪役に徹してくれるからこそアーロン編の回想は感動的なのだし、ナミがルフィに助けを求める場面が最高に盛り上がるのだ。ルフィをお尋ね者にしたのもアーロンの功績だ。またその一方で仲間思いであり、(一応は)金の前には公平な態度を取る筋の通ったところが悪役の美学を感じさせた。
 アーロンは賞金首で、その値は当時のイーストブルー最高額2000万ベリー。ONE PIECEでは賞金額が強さの尺度となっているが、所詮は他人(海軍)が決めた評価であるし、大人の事情が絡んでくることもあって、曖昧かつ間接的な尺度となる。このあやふや加減がこれまた魅力的で想像力を刺激する。たとえば、アーロンはジンベエが七武海に加盟するに際してイーストブルーに解き放たれた海賊なのだから、政府はアーロンに定める賞金を遠慮したかもしれない(高い賞金を設定するということは、それだけ排除を強く希望するということだから)。そうするとアーロン好きとしてはそういったしがらみを取り払った場合のアーロンの評価額が気になるところ。それはひとえに他の海賊よりも強いかどうかによって推し量られる。私は新しい敵が登場する都度、こいつはアーロンより強いのかと無意識に考えてきた。それが意識的になったのはベラミーが登場した頃だった。それというのも、こいつ(ベラミー)はアーロンより弱いぞ、と考えることがそのままアーロンの評価額はベラミーより高額でもよかったのではないかと考えることであり、それがすこぶる面白かったのだ。
 その思考は次のように辿られた。
(ベラミーはルーキーであり、やっかいな芽は早めに摘んでしまおうと政府が高めに賞金を設定していたのかもしれない)
(ベラミーが倒した処刑人ロシオの評価には特に大人の事情が絡んでいないとすると、ベラミーの純粋な評価は双方の賞金の間にあると考えられる。すなわち4200万から5500万)
(アーロンはベラミーに手こずらなかったろうからベラミーより賞金が高くてもいいだろう。ざっと6000万くらいか。すごい!)
 というわけでアーロンの評価は6000万ベリーが順当ではないかと思うのだが、実際の三倍というのは大きすぎる値かもしれない。アーロンを退けたルフィが3000万ベリーであったことを考えるとアーロンの評価額は何の遠慮もない素直な評価だったのかもしれない。しかし逆にルフィが過小評価されたのではないかとか(最弱の海イーストブルーの海賊ということで甘く見られたのかも)、初等の手配で高額を設定することに躊躇いがあったのかもと考えることもできる。アーロンがグランドラインで暴れまくっていたなら6000万はかたいだろうな、と考えるが、さて、尾田先生はどう考えているのだろうか。