オレだって共通の魂を持つ女を愛したいんだぜという人が好きなのは『嵐が丘』

 はてなキーワードなんて、これまでほとんど使っていなかったのだが、ダイアリー市民になったので早速使ってみようと考え、キーワード「嵐が丘」を作成した。かの大作がキーワード化されていないのはけしからん、とか思って。その際に好きなキーワードをお気に入り登録できる機能を知った。お気に入りに登録しておけば、誰かのダイアリーでキーワードが用いられた場合に逐一報告してくれる寸法だ。便利であるような、役に立たないような……。まあしかし、電波や趣味の共通するダイアリーに巡りあえるかも知れないと思い、試している最中で。
 そんな折、「嵐が丘」に言及した内容がやっと登場した。で、読書を好いていそうな人が『嵐が丘』をイマイチだと言及しているのははじめてのことだったので、(口やかましいながら)こちらからも言及してみる。(なお、当方は『嵐が丘』こそ最高の物語だと信じているものの、いや、それだからこそ、同作品がどのようにツマンナイのか聞くのも抵抗がないどころか大歓迎なので、批判のつもりは毛頭ありません。)

嵐が丘』 エミリー・ブロンテ

古典作品ってのは読まず嫌いを克服して実際に読んでみると大抵予想外に面白いもんなんだけれど、こればっかりは駄目でしたね。なんでこんなに評価されてるのかさっぱり理解できない。とにかく登場人物が嫌な奴ばっかりで、うんざりしちゃう。高慢な奴、卑劣な奴、愚かな奴、いくじなしな奴ばっかり。しかも、キャラの書き分けが下手だから、二世代に渡る因縁物語の登場人物たちが殆ど同じパターンの焼き直しだったりする。モームが何を思って「二十世紀の十大小説」に選んだのか、逆に確かめてみたい気がしました(赤井英和的に)。
最近読んだ本とか - quadrillepadの日記

>とにかく登場人物が嫌な奴ばっかりで、うんざりしちゃう。高慢な奴、卑劣な奴、愚かな奴、いくじなしな奴ばっかり。

 高慢なやつが誰であるか、卑劣なやつが誰であるか、愚かなやつが誰であるか、意気地なしが誰であるか、想像することが容易い。登場人物の性格や口の悪さは『嵐が丘』の読者が共通して持つ感想です。
 小説というのは嫌なやつが出てくるから面白いんじゃないですか。登場人物全員が善人と帯びにあった武者小路実篤の『真理先生』は、まあ良作ではあるけれど神懸かり的な境地には達し得ない。善人だけでは「なんかスゲー!!!」の域までたどり着けない。『ガリヴァー旅行記』は厭世的かつ風刺的内容(つまり世間に対し毒を吐く)し、『夜の果てへの旅』もやはり「人生は糞だ」といっているような内容で、嫌みは小説のメイン。
 ヒースクリフの、「ああもうなんでそこまでやっちゃうかなあ」と呆れるくらいの悪人ぶりがいいのだし、二代目リントンの「ほっぺたひっぱたいてやりてえ」と思わせる自己中心的な病人根性がまたいいのだ。そういう悪人どものために生まれた暗澹とし張りつめた雰囲気をおどろおどろしく思いながら読めばいいのだし、雪解けの春がやってくるがごときラストでカタルシスもある。


>しかも、キャラの書き分けが下手だから、二世代に渡る因縁物語の登場人物たちが殆ど同じパターンの焼き直しだったりする。

 「同じパターン」という表現には留まりません。「美しいシンメトリー」というべきものです。それに、一世代目と二世代目で微妙に異なるからこそ、二世代目のラストは一世代目のそれとは違った終わり方を見せるのです。そうすると微妙な差は微妙どころか大きな差として絶妙な現れ方をしている。
 たとえば一代目キャサリンと二代目キャサリンはどちらも高慢だが、一代目は槍を持って悪魔にでも突っ込んでいけそうな性格をしているのに対し二代目はそこまで強くはないし思いやりもある。基本的なところでは親子だけあって似た性格のため同じ行動を取るが、要所要所で別の行動を取る。特に、一代目キャサリンヒースクリフと似すぎていたのに対し二代目キャサリンにそのような雰囲気がまるでなかったところは大きすぎる違いかと*1


モームが何を思って「二十世紀の十大小説」に選んだのか

 男は女性が書いた名作に驚嘆する傾向にあります*2。が、『二十世紀の十大小説』を読んだことがないのでモームの考えについては、なんともいえません。そのモームの書評には他人向けの言葉が用意されているものと想像しますが、おそらく根っこの部分は一代目キャサリンみたいな女を愛したいだとかヒースクリフのような愛の一途なあり方が格好いいだとかいう男特有の価値観が働いているのでしょう。それを根っこに持ちながらも根っこはあくまで土の下に隠し、大地の上に花を咲かせる場合は、丁度、物語の賛美というより神話の崇拝に近いように表現されるのだと思います。

*1:うまくいえないが二人は別人だ。一代目は天使か悪魔(つまり非人間)で、二代目は人間、という印象を受ける。

*2:モームバタイユ唐十郎などなど