旧七武海について

 ONE PIECEも63巻に到達。これでまだ半分を過ぎたばかりというから先は長いですね。
 基本的にはバトルものの漫画ですが、冒険物としても面白いですし*1、広げられた大風呂敷がいかにして畳まれていくのかについても目が離せません。
 

多彩なキャラクターが登場する『ONE PIECE

 ところで、グランドラインに存在する三大勢力というものが語られました。「王下七武海」「四皇」「海軍本部」の三つがそうです。これらの均衡が崩れると世界に影響が出るといわれるほどでした。しかし、この三つは均衡がとれているのでしょうか、という考えが最近目立つようになりました。(……時機を逸した周回遅れの話題ではありますが)
 実際、56〜59巻の戦争編では、「白ひげ海賊団」vs「王下七武海」&「海軍本部」の図式にも関わらず、ぶつかり合う二つの軍勢は拮抗した戦いを見せていました。
 
・「白ひげ海賊団」……三大勢力のひとつである「四皇」の一角。1/4
・「海軍本部」……三大勢力のひとつ。1
・「王下七武海」……戦闘に協力的だったのはミホーク、ド・フラミンゴ、モリア、くまの四名。4/7
 
 確かに、グランドラインを支配する三大勢力という言葉を鵜呑みにすると、衝突した二つの軍勢には勝負にならない戦力差があります、白ひげ海賊団の戦力が不足しているという意味で。
 
 また、「王下七武海」は三大勢力のひとつとして成り立っていないという意見もあります。七武海の一人が白ひげ海賊団の隊長格一人と競り合っているようでは、なるほど、バランスがとれていません。七武海弱い、と見なすのもむべなるかなといったところです。
 
 大長編ゆえ、強さの関係に矛盾を来すことは仕方のないことです。話の規模が大きくなり、世界の全体像が見えてきた現状では避け得ぬ事態なのでしょう。が、そのような理屈で済ませてしまうのもつまらない。この辺りの矛盾を解きほぐすため、少し理屈をこねてみようと思います。
  

均衡をもたらす要素は「影響力」

 ONE PIECEには悪党としての指標として賞金額が定められていますが、賞金額と戦闘力が対応しているとは限りません。賞金額の設定には政治的な理由が関わってきます。無名の海賊でも、天竜人を殴り飛ばすだけで一億の賞金首になれるのではないでしょうか。
 同じ理屈で、三大勢力のそれぞれの「勢力」にも政治的な付加価値があると考えられます。純粋な戦闘力ではなく、他の海賊に対する影響力が「勢力」としての評価に大いに関わってくるはずです。
 たとえば、ゲッコー・モリアは、昔は四皇の一角であるカイドウと激突したことがあります。カイドウと渡り合ったモリア、という評価があればモリアという名の持つ威圧感は十分でしょう。ルフィの言葉を借りるなら「四皇がどうした、俺は五皇だ」といったところです。
 鷹の目のミホークは、世界最強の大剣豪。なにをもって世界最強なのでしょうか。どうしてそのような肩書きがついているのかはよく分かりませんが、世間から世界最強と認められているならば影響力は十分。
 ジンベエはどうでしょうか。彼は魚人です。海と魚人、これほど相性の良い組み合わせもありません。海戦であれば弱いはずがない。五老星のひとりが「ジンベエの加入は異種族との調和の象徴」と述べていたことから、政治的な意味では他の七武海メンバーよりも濃厚といえます。
 また、政府が海賊を七武海に加入させることには後々手をつけられなくなるであろう海賊を早めにコントロールしようとする意図があります。九蛇海賊団を率いるボア・ハンコックは初回の遠征で8千万の賞金首となった。あと2千万で1億の大台。放っておけば賞金額が跳ね上がる一方。それならばいっそ懐柔した方がいい。8千万といえば、クロコダイルの賞金もその辺りの額。彼もまたハンコックと同じように台頭した頃から警戒されたのでしょう。
 早い話が、七武海にもっとも求められるのはネームバリューなのです。他の海賊を牽制する上で有効な海賊をスカウトし、七武海の称号を与えることによって名に更なる価値を与える。七武海の海賊は飼いにくい曲者ばかりではありますが、政府は彼らの戦力そのものよりも名前がもたらす恩恵を重要視しているのではないのでしょうか。
 
 同じ理由から、黒ひげ、ジンベエ、モリアの抜けた七武海の後任としては、バギーが有力です。彼は「四行の一人だった白ひげの傘下にあった」ため「四皇の一人であるシャンクスと兄弟分」であり、「インペルダウンからの脱獄者」であると共に「インペルダウンに幽閉されていた名のある海賊達」を大勢手下に持っている。もういっそ四皇の一人になれそうな気さえします。……あれ、本当になっちゃうとか?
 

守備範囲の違い

 七武海が三大勢力の一つとは名ばかりで、発足当時から四皇と比べれば二枚も三枚も落ちる勢力であったとする説を唱えてみます。
 というのも、四皇はグランドラインの後半の海を支配しているのですから、七武海はグランドライン前半の海を牽制するのが海軍や政府の望んだ役割なのではないでしょうか。ゲッコー・モリアの場合はこの点が明言されてますね。彼が魔の海域を縄張りとしていたのは雑魚海賊抑制のためでした。
 少し七武海の面々のアジト、その所在について考えてみましょう。
 
・ゲッコー・モリア
 →グランドライン前半の海の終着地点ともいえるシャボンディ諸島の直前にある魔の海域をゲッコー・モリアが縄張りとしていたのは、雑魚海賊抑制のためでした。
 
ボア・ハンコック
 →女が島はカームベルトにある。どこのカームベルトとは明言されていないがレッドラインを越えていないことからグラウンドライン前半であることは確か。
 
・ミホーク
 →約七年前からクライガナ島シッケアール王国跡地を住処としている。もちろん前半の海。
 
・ジンベエ
 →魚人島だからグランドラインの中間地点が住処。だが、白ひげにはしばしば会いに出掛けていたようなので新世界も行動範囲か。
 
・ド・フラミンゴ
 →不明。新世界に住居を構えていそうな気もする。

・バーソロミュー・くま
 →この人に住処とかあるのか?
 
・クロコダイル
 →グランドラインのかなり序盤、アラバスタ王国で海賊討伐の日々。なんて優等生なんでしょう。海軍と政府の望む模範的行いですね。
 
 以上から、七武海が四皇とは棲み分けを図っていた可能性は大です。二つの勢力が激突する意味もなければ機会もないはずだったのでしょう。前半の海をパラダイスと感じてしまうほど後半の海(新世界)は過酷な環境なので、新世界に留まり続ける四皇の方が強くて当然ですね。
 あと、七武海の選出として前半の海に居座ってもらえることも選考基準に入っていたとすると、新世界から(敗北して)帰還してきたクロコダイルやゲッコー・モリアを勧誘したのも頷けますね。
 

実は強い・強かったんだ説

 最後に、七武海の強さは依然変わりないものだとする説をあげさせて頂きます。
 
・ミホーク
 四皇の一人、シャンクスと良きライバル関係にあると思えば、その強さは未だ健在でしょう。ただし海賊ではあっても海賊団ではないので多勢に無勢、四皇より評価(強さと言うより人望)が落ちるのはしかたがない。
 
・クロコダイル
 まず、七武海の称号が地に落ちてしまったのは、(登場した当時は文句なしの強さだったとはいえ)クロコダイルが序盤のルフィに負けてしまう程度の強さでしかなかった、といった理由があります。当時のルフィはギア技を知りません。ルフィがギアセカンド、ギアサードを開発して全力でぶつかりあった相手としてはロブ・ルッチが挙げられます。そのため、クロコダイルはルッチより下と見なされてしまいます。しかしこれは覆しようのない事実なので受け入れるとしましょう。能力面を鍛えていたクロコダイルは体術面ではルフィに劣るところがあったとする他ありません。
 しかし本当にルフィより劣っていたのはむしろ精神面での強さだったのかもしれません。グランドラインを攻める海賊としては、海賊王になると宣言できる気概ぐらい当たり前にもっていなければならなかったとすれば、それを大声で叫ぶことの出来ないクロコダイルは、ルーキーのキッド以下です。ですが、クロコダイルにも海賊王を目指していた時期はあったはずです。新世界で暴れ回っていたルーキー時代の方が心力は強かったのかも。新世界から逃げ帰り、アラバスタのような雑魚しかいない海で暮らしていては、弱体化を辿る一途だったのではないでしょうか。勝負勘が鈍り、精神面の弱くなった彼は能力の使えない状況で不慣れな肉弾戦をやらされ、負けたのです。
 というわけで、ルフィに負けたときのクロコダイルは全盛期じゃなかったんだ!(どーん)
 そしてクロコダイルは今後、全盛期を越える!(どーん)
 
・ゲッコー・モリア
 ルフィ単独では勝てなかったはず。だが、ホームラウンドで戦って“麦わら海賊団”に負けたのだから海賊団としての負けは決定的。主人公側が七武海と拮抗した実力をもっているというところで、七武海の威光が薄れ始めた。というか、モリアへの評価が今の七武海の評価低迷の魁となっていたように思う。多くの読者的にはモリアはNGだったようで。
 しかし新世界で四皇の一人カイドウと戦うところまでいったのなら、それなりの猛者だったのでしょう。
 
・バーソロミュー・くま
 量産されたことで相対的に評価が下がっている気がするが、攻撃手段が豊富な上に耐久性能も高い。
 
ボア・ハンコック
 ルフィ達を苦しめた量産型のくまPxシリーズも、石化させてしまえば覇気を纏った蹴りで粉砕できる道理。常在型の精神攻撃もある。なにげに厨スペックなのでは。
 
・ジンベエ
 白ひげ海賊団の隊長に過ぎないエースと互角だったという表現から、ジンベエの評価を下げる見方があるが、逆に、血筋としてエリートかつ自然系能力者のエースと陸戦で丸五日戦える猛者なんて滅多なことじゃお目にかかれない、と見る方が妥当ではないか。ジンベエとエースが互角ならば、ジンベエは覇気を習得する以前のルフィよりも強いということになる)。戦場が海であれば船を破壊するところからはじめ、海水を利用した魚人空手で立ち回る。あと、相性がよかったためモリアを圧倒していた。
 何かにつけて評価が低いのはお人好しだからか。赤狗にやられたことも評価を下げる要因となったが、大将の方が強いのは別に七武海の称号を貶めることには繋がらないと思う。攻撃力(破壊力&規模)の高さで言えば大将らは作中でも最高クラスだし。
 
・ド・フラミンゴ
 戦争編でやっと少し戦ってくれたが、実力の程は未知数。
 

結びに

 こうしてまとめてみた感想としては、七武海は別に(大将や四皇に比べて)強くなくてもよい気がします。(エントリを立てた趣旨としては、本末転倒だが……)
 グランドライン前半の海を主な縄張りとするのが七武海だとすると、グランドライン後半の支配者より格が落ちても仕方がない。また、四皇はその名の威厳で島を守れるほどだから、多くの領土を持っていると言える。七武海にそこまでの力はない。
 そうはいっても、七武海にもカリスマ性はあります。クロコダイルが犯罪会社バロックワークスを組織できたことから、彼には大海賊団を率いる素養があると分かりますし、ゲッコー・モリアもあれでなかなか人望が厚いようです(スケスケとホロホロの二人は、なんであそこまでモリア様にご執心なんだろうか。ホグバックもまだモリアについてるんだろうな。謎のカリスマ性だ)。ハンコックはメロメロの実の効果もあってあの通りの慕われ様ですし、ジンベエも人望はあるのでしょう。
 
 と、色々妄想してみたわけですが、新章ではまだ明らかになっていない七武海の新たな顔ぶれが明らかになれば、七武海の選考基準についても新たに見えてくることがあるでしょう。そのときに何か不都合があれば「二年前と選考基準が、あるいは七武海の役割が、変わったんだよ」という準備は出来ています。(どーん)

*1:冒険物をメインに据えて世界名作劇場的なノリの漫画が出たら受けると思うんだが、もはや誰も描けないのだろうか。まあジャンプでは連載できないだろうが……。