毒吐く

 スピッツのアルバム『スピッツ』に収録されている『ビカリのこころ』をかける。少し気分が楽になる。
 先週からどうにもこうにも意欲の湧かない日々を過ごしていた理由の半分は分かっている。物語してなかったからだ。物語できなかったといった方がいいのかもしれない。時間なら十分あった。午後三時に起きて、午後五時前に家を出るそれまでのあいだに書けるはずだった。しかしなかなか起きられなかった。意欲さえあれば違ったはず。すぐに起きて、五分後には飯を腹に詰め込んで、その十分後にははてなスターの報告をチェックして、執筆し始めることができたはずだった。ところが肉体も精神も死んだように動かなかった。リョサならクレーターとクレーターを繋ぐ合間といっただろうところを私は彷徨っていた。物語の山場を過ぎて、書きたいところが一段落つけば、目の前には何もなく、しばし目的を見失ったかのように筆が進まなくなる。しかし書きたいことは山とあるはずで、少しばかり溜め込めば書けるはずだと信じている。信じているが非常に苦しい。書けない日、書けない時間というのは人生から色彩を奪ってしまう。書けないとき、負の螺旋は巡る。どこまでも落ちていけてしまえる。どうやって書いていたのかが分からなくなってくる。多分、人は感性のままに筆を振るうときもっとも楽なのだと思う。麻薬的興奮が脳髄を満たしているときのみ書いている実感を得る。この快楽がなければ私はとても生きていけない。
 もう半分の理由は仕事にある。仕事のどこがどのように悪影響を及ぼしているのかは考えるのも面倒くさい。ただいえることは休日ですら休日でなくなるこの気怠さがとかく害になっている。
 一日に、三時間働くだけで食べていけないだろうかと考える。しかしそのためにしたことなどほとんどない。その気力さえも削り取られている。
 パソコンの音源から聞こえてくる――僕らこれから強く生きていこう行く手を阻む壁がいくつあっても。両手でしっかり君を抱きしめたい。涙がこぼれそうさ、ヒバリのこころ――

 おんなじアルバムの『海とピンク』に切り替える。これが好きだ。一番好きだ。



 ――ほらピンクのまんまる 空いっぱい広がる きらきらが隠されてた

 ためらいなくエロい歌詞。楽しそうに歌っている女の子がなぜか目に浮かぶ。そうだ、誰か女性ヴォーカルがカヴァーしてくれないだろうか。



 少し溜め込んだ。
 今週はいけるはず。いかなきゃなるまい。書いているときだけ、私は宇宙だ。孤独で優しい無限の広がり。