鉄拳チンミが久々に面白かった

鉄拳チンミLegends(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

鉄拳チンミLegends(6) (講談社コミックス月刊マガジン)

鉄拳チンミ』から『新・鉄拳チンミ』、そして『鉄拳チンミLegends』と続くカンフー活劇漫画の最新巻。
 傾向と対策を取って才気煥発させながら一つ一つ強くなっていくチンミは大林寺で修行し、ヨーセン道師の教えのもと通背拳を習得し、修行の旅を経た後に大林寺の師範となる。師範となってからも諸事情により大林寺の外部に出かけ様々な事件に巻き込まれ、痛快なアクションを伴い危険を切り抜け、これらを解決する。
 長期連載されているだけあってマンネリの連続となってしまっているのはご愛敬。『鉄拳チンミLegends』はいまいち疾走感に乏しく、期待感を強く煽る展開はなかった。「他の漫画と比べて格別にここが面白いんだよ」と興奮して語らせる何かをもっていないというのがいただけない。
 しかし今回、六巻目にして鉄拳チンミらしい興奮が味わえた。



 Legendsの舞台は悪党街マウロン。とらわれの身となったお姫様を救出するのが我らが主人公チンミ。姫がとらわれになっている要塞には十人衆なる強敵が待ちかまえている。
 なんだか、興奮するかしないか、微妙な展開だった。十人衆と聞くと「強敵が十人もいる!」と考えられるかも知れないが、これまでこのシリーズを読み通している読者としては「やべ、雑魚っぽくしか描かれようのない敵を想像してしまう」という駄作の気配を感じてしまっていただけなかった。案の定、いまいち興奮できない。惜しいと思いながら購読する日々。
 五巻から参戦し始めた十人衆の一人ハクシンは、主人公と同じ技を必殺技*1に持っていた。私は、また安っぽく消費されてしまいかねない敵が現れたと思ってしまった。それもそのはず。チンミの強さや通背拳への熟練度を思えば、いまさら他の通背拳の使い手に手こずるとは思えないのだ*2。ところが実際に闘い始めたところ、あにはからんやこれが面白い。
 ハクシンがまともに強い。
 カメラアングルが久々に冴えている。
 ハクシンがどのような経緯で通背拳を体得したかの予想が的中しニヤニヤ。
 互いに相手の必殺技を熟知しているという前提がうまく描かれている。



 通背拳を熟知し合っているというところが肝だった。これまで一つ一つチンミが積み上げていった鍛錬や激戦が回想シーンなしに自動的に回想されてしまうところがいい。「左の通背拳もあるのか、それともあえて見せずにいるだけなのか」という駆け引きは、駆け引きそのものを楽しませるだけでなく、過去最大の強敵であったボル将軍との闘いを必然的に想起させる。(そういう意味ではシリーズすべてを読み通したものだけが味わえる興奮があった)
 Legendsへの期待感は高まってきました。前川たけし先生、この調子でお願いします。(とりあえず今後は悪党の美意識に期待したいところです。ボル将軍に勝ってしまったチンミなのだから、敵の強さに期待するわけにはいかないので、活劇としての内容か敵の持つ哲学に魅力を見出すしかありませんので。あと、同伴の弟子がどう成長するのか。)



 おまけ――通背拳の使い手
 ヨーセン道士(チンミの師匠)
 オウドウ(ヨーセン道士に師事)
 ボル将軍(チンミの技を見ただけで体得)
 ハクシン(通背拳を「使う」というよりは「使いこなしている」感じが魅力的)
 チンミ(直接型および壁越しの通背拳、ダブル通背拳、回避しようとする敵を追尾しての通背拳、左の通背拳、雷神発動時の通背拳
 こうして振り返ってみると通背拳の使い手同士で闘ったことはすでにあったわけだ(vsオウドウ、vsボル将軍)。

*1:その名も通背拳。気功を叩き付ける掌打。

*2:あれほどに強いチンミが、今更本当の意味で苦戦する強敵がいるはずもなく、かといって物語の展開に期待もできないとなると、読者(=私)の期待値は激減してしまう。更には十人もいるとなるとどんどん使い捨てされるのが定めのようなもの。味わい深い敵キャラが登場しにくそうで、これまた期待値が下がってしまう。