ダン飯読み返したから、雑記をしたためる

 ダンジョン飯、アニメ化されたのをきっかけに読み返してみたけどよく練られたお話でした。
 レッドドラゴン戦って四巻だったのか。こんな早かったとは。



 いろんな設定が噛み合ってゲーム的な状況に妥当性を持たせてるのが面白い。
 「迷宮は欲望により変化するから、大人数で挑んではいけない、六人パーティーが上限」ってところで軍隊的な突入はなくなる。
 「死んでも魂は迷宮の中に囚われるから蘇生できる」というところで蘇生ありきの戦術もとれてしまう。
 ダンジョンの深層に近付くほど魔力が濃くなるため魔法の効果があがっていく。しかし魔力の回復手段は乏しいため魔法には使用回数が課せられているに等しい。



 いかにもゲーム的な風景が生まれるが、そこに食料という兵站事情が混じってくると、途端に現実的泥臭さが出てくる。
 回復魔法も蘇生もありだから怪我も死亡も魔力で解決できるけど、健康状態は栄養バランスの取れた食料がないと持続できない。長期間の持久戦は無理。
 栄養を摂った上での休息があればHP、MP、スタミナ的なファクターの回復もあるだろう。
 また回復&蘇生魔術の回数は魔力依存だから上限が定められてるけど、魔物食べていいならダンジョン内部で効率の良い魔力補給手段が生じる。
 最強装備を調え、最強パーティを形成し、バフ魔術かけあってガンガン強行軍で進んでいけばクリアできる!とはならない。パーティー上限人数で運搬できる食料物資が、そのまま進行上限にかかる。物語冒頭でライオス一行が全滅するのも、まさにこの上限にかかっていたから。
 このときライオスはダンジョンから脱出する魔法によってダンジョン内部での全滅は避けられたにせよ、所持金喪失・食料なし・アイテムランダム紛失から、ファリン消化までのリミット付きで、フルパーティー・フル装備・アイテム準備万端でようやく辿り着けたのと同じ地点までの再走を要求される。こうして考えてみると絶望的な要求だ。というかゲーム的な観点で言えば100%詰んでる。マインクラフトで何度も経験してきたやつだコレぇ……無限リスポーンあってもアイテム消滅時間(5分)までに死亡地点まで辿り着いて落ちてる装備拾い集めてリアルタイムで装備して自分を一度殺した敵mobに殺される前に殺さないとまた死んで完全ロストするやつだコレぇ……*1



 冒険者視点だけでも興味深いが、迷宮の主の視点から考える楽しみもある。
 こちらはダンジョン運営シミュレーションゲームだ。
 迷宮の主は倒されると負けなのでダンジョン深奥に引きこもり、ダンジョンを踏破しようとする外敵を阻むための魔物&トラップを仕掛けることとなる。
 凝った魔物を配置しようとすると、その魔物を持続するためのリソース開発に囚われる。つまり凶悪な肉力獣を配置しようとするとエサとなる魔物も配置しなければ餓死してしまう。なんなら競合して身内で争い始める。定形の肉体を持たない精霊系の魔物を配置したいならやはりエサとなる魔力を供給するロジックが必要になるだろう。
 結果として、魔力の薄いダンジョン低層には適当に雑魚モンスターを配置することとなる。本作では歩きキノコ。駆けだし冒険者に対してチュートリアル役になってしまいそうな、なんとも芸術性のないダンジョン設計になってしまうが、迷宮の主側としてはお手軽なのだ……。
 魔物というユニットを配置するためのリソースは無限にあるのに、そのユニット同士の関係性を把握していないと持続性のある障害として機能しなくなるというジレンマ。これは何とも特殊なゲームであるから、迷宮の主はたいていの場合は初見の素人プレイヤーで、ダンジョンに付け入る隙が生じてしまうだろう。



 自分ならどうするかと考えさせられてしまうもの。
 パッと思いつく範囲では植物系モンスターがコスパ良さそう。単純に物理的な障壁になるし、麻痺系の毒もやっかい。かぶれるだけでも目の周辺が晴れたらまともな視界を得られなくなって撤退を余儀なくされるし(チェンジリングもマルシルが対策薬を開発するまでは七面倒くさい障害だった)。まあ、そこにカエル混ぜちゃってライオスに攻略されちゃうってのは、絶対やらかす自信ある。というか植物の繁殖に虫が必要で、虫がいればそれを食う魔物としてのカエルがコスパ良く配置できるなーってなって、それがまさか裏目に出るなんて思いもしない。
 迷宮の主側は、冒険者に迷宮を攻略されたことを察したなら、ダンジョンのアップデートを求められるわけで……面倒くさい。もう何が正解なんだよってなる。
 ライオスが迷宮の主になっていたらどういうダンジョンを設計しただろうか、と想像力を膨らまされるところに、この漫画の底知れない魅力がある。



 そういった想像力の根本を支えているのがダンジョンの生態系。
 物語の中でパッと出てきた魔物が、その一回で終わらずに、次に出てくる魔物と関連づけられていくことで物語にも深みが出る。
 宝虫→ミミックをエサにして繁殖→宝箱の中に財宝(に擬態した宝虫)→冒険者が財宝(宝虫)を持ち出すことで生息域拡大→地上でも昆虫食として採用している地方が出てくる といった連鎖反応が楽しい。
 チェンジリングもそう。センシの過去を語る上でギミックとして登場するが、ギミックのままでは終わらない。種族をチェンジさせることに、ちゃんとチェンジリングという生物にとっての生存戦略があるというところまで繋がっていく。
 生態系があることが伝わってくるからこそ食物連鎖が意識される。その連鎖の頂点に立つことが、ダンジョン内で飯にありつける存在というところで、『ダンジョン飯』という漫画が一発系ネタ漫画の枠に収まらなかった理由なのかなと。






 というところで終わっておけば、ブログ記事としては収まりがいいのだが、ダラダラ続ける。
 イカ蛇足。
 そういえばこの漫画、イカとタコの扱い、悪かったなぁ。たこ焼きでてこないんかい。子供の頃は寿司ネタとしてはかみ切りにくいやっかいなネタだったけど三十過ぎてからは食感が楽しすぎるネタになったわ。ネガティブ・スティフネス・ハニカムタコの未来寿司食べたい。




 ライオスとマルシルの恋愛方面の話。
 匂わせてる程度が良き、とされている。
 いやでもライオスって本当に人間(この場合トールマン以外のエルフドワーフハーフフットも含む)の方を向いてないよね。サキュバス回で分かるよね。なんならオークのメスの乳と尻に発情できなくもないってレベルで変態だよね。
 それでいてやっぱりサキュバス回で出てきたのが魔物版とはいえマルシルであるあたり、魅了されている要素はあるんだろう。
 そんでもチルチャックじゃないけど、恋愛はお呼びじゃない。なんていうか「恋」や「肉欲」ぬきでも「人生のつがい」は成立すると思うし、なんなら「恋人」や「夫婦」よりも「友達」や「仲間」のほうが抽象的で不確かな存在(そう、現実における魔物のように想像上の産物)であって尊い関係性といえるのではないか? というところまでふまえたうえで、ライオスとマルシルは、寄り添って生きていて欲しいよね。
 よねー?(同調圧力



 おしまい。

*1:つい最近、海底神殿で死亡して、トライデント含む予備の装備がなく、水中呼吸のポーションを作り直すところから時間の戦いが始まって、現地へ走ったらガーディアンに再び殺されて拠点のベッドまで戻って、またポーション作り直すところから……というドタバタ劇があった。あれをやれというのがライオスの置かれた状況だったのだなあと。