イメージで打つ大正義マンガン理論

 去年はウザク本*1、平澤本1*2、平澤本2*3カニ*4、押し引き本*5などを読みあさった。
 どれも良書で、中級者を対象として書かれている。
 どの本からも学ぶところはあるが、言ってしまえば、どの本も書いていることは一緒というか、どこかで読みかじった内容と被っていた。
 そしてこれも仕方のないことだが、まじめな書物になればなるほど書いていることが堅苦しい。麻雀本を手に取ろうとしている時点で意欲十分・適性十分だから内容が難しくても構わないっちゃ構わないが、もっと、なんというか、テキトーなイメージでカンカクを身に付けるふわっとした戦術書があってもいいのではないかなと。
 
 
 
 たとえば。
 テンパイで良形低打点に受けるか、愚形高打点に受けるかを選択できるとき、どうするか?
 セオリーは「打点が1ハン+10符以上あがるなら高打点に受ける」とされている。
 この一文に目を通して「そうだったのか! ヨッシャ、じゃあ次からはこう打つぞ!」と思える麻雀初級者・中級者が果たしているだろうか?
 「これは明日から、いや今日から使えるテクだな!」「いくらでも応用がきくぞ!」とはならない。
 そもそも符計算できない層からすれば10符てなんやねん、となる。
 
 
 
 良形低打点vs愚形高打点。
 この良形ってのは、つまるところピンフピンフのみのこと。
 高打点愚形ってのは、つまるところ三色。愚形で三色のみのこと。
 

 ▲2mと5m、どちらを切るか?
 
 ピンフのみ。
 ここから何をイメージするだろう?
 「リーチ」して「ピンフ」 出上がり2000点。
 
 じゃあ、愚形の三色のみは?
 「リーチ」して「三色」あって「ツモ」でマンガン
 
 もう説明する必要はないだろう。
 2000点とマンガン、どちらを選ぶのか。
 マンガンに決まってる。
 麻雀はマンガンを何回あがるかを競うゲームだとかいう格言もある。
 (違ったっけ? マンガンを二回あがれば、ほぼ勝ち だっけ?)
 
 
 
 ちょっと待て、ピンフは出上がりで、愚形三色の方はツモれる前提とか、比較としておかしいだろ、というツッコミが予想される。
 そんな細かいことはツッコまんでよろしい。
 これは単なるイメージの話だ。
 人には夢が必要だ。都合のいい結果だけを想像していればいい。
 第一、マンガンは無理をしてでも作るもの。ツモれる前提でリーチだ。
 
 それにピンフにツモがついたからって、なんなの?
 「リーチ」「ピンフ」「ツモ」で2700点だ。
 ここに裏とか一発とかオプション*6がつけば嬉しい。
 が、ピンフのみをリーチするときにそんな夢を描く人がいるのか?
 だいたいツモっておいて裏は乗らなくて、「裏が乗りやすい牌姿なのにクソが!」て気分になるでしょう?
 「俺のピンフには裏が乗らないんだ……」とかネガティブな気分になるでしょう?
 せっかくツモっておいて!
 出上がり2000点だったら、「ツモ裏まで期待していたのに出ちまったらしゃーねーな」て思うでしょう?
 人間ってのは強欲にできてるもんだ。
 
 つまるところ、人がピンフに抱いているイメージなんて、そんなものだってこと。
 
 
 
 じゃあ、ピンフドラ1だったらどうか?

 これはもう、話が違ってくる。
 「リーチ」「ピンフ」「ドラ」「ツモ」で5200点だ。
 リーチした時点でツモる気満々になってる。
 出上がりだとしても、「裏」がのれば7700点だ。
 リーチした時点で3900点収入が確定で、そこから5200か? 7700か? 8000か? と夢が膨らむではないか。
 良形だから追っかけられても大丈夫。追っかけても大丈夫。リスキーな場面では黙ればいいだけだ。ダマの出上がりは2000点だから、最悪手を崩してオリるときも、そこまで未練タラタラにはならない。
 なんてメンタルにやさしい手なんでしょう!
 
 
 
 それがピンフドラドラまでいったら?

 もう鉄リーだ。
 ツモり5200、出上がり7700、オプション次第でハネマンあるかも?
 こんなん押せ押せですわ。
 ある意味、リーチドラ3より素敵。リーチドラ3って、マンガン確定してるかわり、マンガン天井にがっつりかかってハネマンまでのブレイクスルーが期待できない。そこにはロマンがない。あがれなかったら悔しさに身悶えするし。
 麻雀界の出世頭。それがリーチドラドラ。ダマって3900じゃもったいなさすぎる。マンガン、いやそれ以上を目指して空に羽ばたく。めくり合い宇宙(そら)。
 
 
 
 てな具合にマンガンクラスの打点を基準にすると手のイメージが掴みやすい。
 愚形のリーチドラ1も同じこと。

 リーチした時点では2600点でも、一発ツモでマンガンクラス。
 愚形ニンロクは勝負手って、誰が言い出したんでしょうね、名言だ。
 カンチャンだろうがペンチャンだろうが、マンガンチャンスを逃す手はない。即リーチだ。一巡目だけテンションが異様にあがる。一発消しをされるとしらける。
 愚形なので先制でなければ打ちにくい。特に親に追っかけるのはむつかしい。
 ところがこれがドラ2だったらどうなるか。冒頭で述べた愚形三色と同じ扱い。ツモってマンガンなら問題なくリーチ。
 世に溢れかえっている戦術書のどれを開いても良形テンパイならだいたい押しと書いてある。それなのに、「マンガンテンパイならだいたい押し」という内容は、なぜか別のところにもっと長い文章で記述されている。
 麻雀はマンガンで回っている。マンガンあったらだいたいのことは許される。古事記にもそうある*7
 
 
 
 これで頻出のメンゼン手のイメージは網羅した。
 鳴き手もだいたいイメージだ。
 ホンイツ手とか、まちがいなくイメージでいい。ガンガン鳴いてプレッシャーかけていくと相手が対応してくれるので、こちらも対応しやすい。
 鳴き手でもマンガン大正義理論がすべて。
 マンガンになるなら片上がり上等、後付け上等だ。ドラがたくさんあるのにメンゼンではまとめきれない、なんてときはゴリ押しあるのみ。*8
 逆にマンガンないなら、捌き手は捌き手と割り切る。安くて構わない。和了率のみを重視する。他家のマンガンを阻止するという意味でマンガン大正義理論に則っていることに変わりはない。
 
 ただ、鳴き手をイメージでやるには間合い感覚というイメージも必要になってくる。
 鳴き手は相手の懐に飛び込むインファイト。敵が砲台に弾丸を詰め込んでいる最中を狙って竹槍で特攻するようなもの。
 しかし竹槍で装塡済みの長距離ミサイルと戦うのは分が悪い。戦うにしても単独ではなく複数名でかかりたい。
 このへんの感覚は丁寧に説明しはじめると長くなるので割愛。
 
 
 
 上記のイメージを応用すると牌効率も分かってくる。
 愚形三色、ピンフドラ1、リーチドラ1などのイメージから、ドラか役が必須だと分かる。
 
 ネマタ本2*9の29Pから引っ張ってきた牌姿を例に取る。


 ドラは5pとする。
 平場で一巡目。他家は普通に字牌整理中。何切る。
 
 答えは7s切りとなっている。
 4mか8mが引ければ一気通貫の役が狙えるし、4pにドラがくっつけばピンフドラ1になる。
 現時点では「役」も「ドラ」もないから、それらを求めた。しごく真っ当だ。分かりやすい。
 
 じゃあドラが2sで他の条件は同じ――つまり、ドラをすでに1枚持っていて、メンツに組み込まれているとしたら?
 打9mとして4pと7sのくっつきテンパイを見るのが最速の手順だ。
 半分はピンフドラ1になり、もう半分は愚形2600点になる。
 
 逆に、ドラや役といった大正義マンガン神様を召喚するための鍵がないなら、割り切って安手に甘んじるか、オリる準備を兼ねた手作りをすること。
 
 
 
 防御するときは相手が大正義マンガンをテンパイしていると思えばいい。
 自分がマンガン信者であるなら、今の自分の手がマンガンと勝負できる手か、勝負の場に間に合う状態か、分かろうというもの。特に他家の鳴き手がマンガンを狙った仕掛けである場合、ピンとくることが多い。自分と同じ鳴き方だから分かるはず。
 自分のマンガンは原動力となるロマン。
 他家のマンガンは切実なリアル。
 リアルは強い。
 
 
 
 こうしてイメージで掴むと、判断が早くなる。
 マンガンというプラスイメージができあがっていれば追っかけリーチも怖くない。
 追っかけられるのも怖くはなくなる。(言い過ぎ)
 めくり合いに負けても戦術にミスがないならメンタルは傷つかない。
 そしてイメージというあやふやなものだからこそ、セオリーが覆る場面で柔軟に対応できる。
 
 でも一番の恩恵は他にある。
 それは自制心がつくこと。
「自分はいつどこからでもマンガンをあがれる」と思えればしめたもの。心に余裕が生まれて無茶はしなくなる。リーチを受けて愚形残りのイーシャンテンで前に出るなんて愚行もしなくなる。全員と8000点あけられていても平場だと見なせれば上々だ。
 
 戦術書を読んでセオリーを覚えても、結局のところセオリーを遵守できるかどうかは人の性格による。
 押してはいけないと知性で分かっていながら、ついつい過剰に押してしまい、覚えた知識を活かせないまま負け、メンタルが崩れる。
 メンタルがやられると、ほんの少しツイていないだけの事象を過剰にネガティブに捉えてしまう。
 ピンフドラ1をテンパイしても「スライドしてタンヤオがつく、スライドして赤ドラを組み込める」といった理由でリーチを見送り、牽制されていない他家の手を自由に進めさせ、結局他家の勝負手と正面衝突することになる。そしてその後の点数移動によっては、「あそこで即リーして3900でいいからあがっていれば、逆転の条件が断然ユルくなっていたのに」と思うこととなる。
 ラス目であることを理由に無茶な押しをして、数理の摂理に従い大敗する。
 メンタルはブレイクし、ドツボにハマる。
 
 戦術書の知識を正しく運用するためには、最終的には意識を切り替えないといけない。
 しかし意識なんて、そうそう変わるものではない。
 バカは死ななきゃなおらないというのは本当だ。他人が諭してくれてもそれを受け入れられない。愚かしいと知りつつも己の感情を優先してしまう。
 イメージはそのバカを化かす特効薬だ。
 イメージは他人の命令ではない。説教でもない。敵でもない。まるで自分が発案したもののように素直に受け止められる。
 それでいて説得力がある。本に書いていたからという理由では実行できなくても、イメージとして捉えている戦術なら実行できる。イメージはまだ実現していないことをあたかもすでに実現したことがあるように感じさせる。
 ジョジョ風にいうなら「頭ではなく心で理解」すること。
 知識は頭に働きかけるが、心に働きかけるのはイメージだ。
 
 
 
 というわけで、キミも大正義マンガン神様を信仰しよう。
 難しい話ではない。ピンフドラ1やピンフドラドラ、愚形ニンロクといった手を迷わずリーチし、日頃の行いを思い返しながらマンガンおいでませと心で呟く。
 それだけだ。
 
 
 

*1:『麻雀 傑作「何切る」300選』 G・ウザク (著), 福地 誠 (編集)

*2:『絶対にラスを引かない麻雀 〜ラス回避35の技術〜』平澤 元気(著)

*3:『よくわかる麻雀の勝ち方 〜牌効率から読みまで極める30の技術〜』平澤 元気(著)

*4:『日本一麻雀が強いサラリーマンの必勝法』 かにマジン (著)

*5:『現代麻雀押し引きの教科書』 福地 誠 (著)

*6:偶発役と書いてオプションとルビをふる。ツモ、一発、裏ドラのこと。

*7:ウソである。念のため。

*8:ドラ3で役はハイテイのみとかも。成就したとき自分に酔う。

*9:『もっと勝つための現代麻雀技術論 実戦編』 ネマタ (著), 福地 誠 (編集)