ブログの話

 ブログを更新する癖がすっかり抜けて、何年か経ってしまった。
 何年経ったのかと履歴を見返す気もない。
 三木清の『人生論ノート』について、せめて一年に一度は記事を書こうとしていたが、今年の夏はついに身体が動かなかった。次は「怒について」の章だ。読みはした。記事内容がすぐに出てこなかったが、それは大きな問題ではない。書き始めさえすれば何か書けるはずだった。だがそのための体力が決定的に失われていた。
 ここでいう体力とは比喩的なものだ。実際に失われていたのは何だったのか。



 書かなくなって(書けなくなってというべきか)己が承認欲求を原動力として書いていたことがよく分かるようになった。
 書かなくなったとはいうものの、それははてなに限ったことだ。他のブログは更新している。
 エキサイトブログはいいブログだ。シンプルで使いやすい。
 そこでとあるゲームのブログ記事を書いている。
 そのゲームを仮にFゲームと呼ぼうか。フラッシュゲームだからFにした。



 Fゲームはすでに全盛期を過ぎ去ったオンライン対戦型のゲームだ。僕が始めたときが全盛期の下り坂に入って少し経った頃だろう。グーグル検索をかけると全盛期に綴られたらしい記事が目についた。しかし現役でブログをやっている場所はひとつしかないようだった。そのブログにしてもFゲームについてチャットで議論を交わすグループが、そのチャット内容を外部に配信する目的で運営しているのであって、僕の思う生粋のブログではない。
 そのとき僕はFゲームのブログを作ろうと決めた。
 需要はあった。
 主に、僕に。
 僕はいつもそうだが、僕が書くものは僕が読みたいものだ。他の人はどうでもいい。僕という読者を想定して、僕のために書く。少なくとも始まりはいつもそうだ。
 さあ、そうすると、ライバル不在の環境だ。Fゲームをしているプレイヤーが検索をかければ出てくるのは僕のブログだけだ。少しずつ存在を知られ、読まれるようになる。
 やがて(当時の僕は知らなかったが)僕はFゲームのアイドルとなっていた。
 ゲーム内部のチャットでランダムに遭遇する対戦相手から、
「ブログやっている人ですよね?」
「ブログ読んでます」
「ブログがんばってください」
 なんていわれるのは悪くない。
 先生と呼ばれたこともあった。
 悪くない。木があれば上っただろう。おだてられるとその気になる。
 はてなダイアリーは更新していないが、エキサイトブログは週に一度の頻度で更新している。ブログを書く体力はある。だが片方には更新の動機が持てないのだ。



 Fゲーム周辺、それは狭い界隈だ。アクティブユーザーは200人もいないかもしれない過疎の進んだゲームだ。ブログは一日に50〜100PVもあれば十分だ。ゲームを満喫し、その結果をブログにあげる。好循環だ。
 やがてFゲームに関するブログが増えていったが、僕は今でもFゲームの代表的ブロガーだ。
 しかしそれが望んだブログの一形態でしかないことに気づく。
 僕は僕のために書いていたが、そうするなかでキャラ付けが確立してゆく。気さくで、人の悪口を言わず、とっつきやすい人柄。そのキャラに反する言動は慎まねばならない。誰もそれを求めてはいない。僕もそのキャラクターを失いたくはない。失ってしまえば僕の書きたいものは書けなくなる。ひるがえっては僕の読みたいものが読めなくなる。しかしキャラクターに反した言動もしてみたい。



 そこで新たなブログに手を出すことになる。
 カジュアルに更新したい。
 更新していても更新していなくても不自然ではない雰囲気が欲しい。
 SNSのようなものだ。
 それでいてそれはブログだ。
 場所とテーマが定まっている空間。
 そのブログを運営している人物はフランクな態度で、ときに喧嘩腰にもなる。従来のIDとは無縁のふてぶてしい「僕」としてFゲームにまつわる情報を発信する。



 そのためにはどこのブログサービスを利用しようか?
 僕は広告が少なくて(無いのが一番だが)一覧性に優れるブログが好きだ。
 過去記事を遡りにくいブログなんてとんでもない。
 デザインもシンプルがいい。
 FC2ブログは駄目だ。あれはなんかゴチャゴチャしている。カスタマイズすればいい? 何か違う。(ただし使っていないわけではない。麻雀ブログをやっている。読者はゼロだ。いや、僕がいる。それでいい)
 アメーバブログ。あれも駄目だ。省きたいものが多すぎる。
 忍者ブログ! これが僕の望んでいたものだった。



 僕は正体を隠してその新ブログを開いた。
 結果、毎日欠かさず更新することとなった。
 何一つ宣伝していないのに存在を知られ、広められた。Fゲームのブログリンクへの登録を誘われたが、それを蹴ったにもかかわらず、だ。「声」がアクティブプレイヤーに届くようになった。
 更新にストレスはない。
 ゲーム内のランキングをキャプチャして、その画像を掲載するだけの簡単な作業だ。
 あとはそこにコメントしたいことがあればするし、なければ「今日は特に何もない」とでも書くだけだ。






 こうしてブログを書いてきて思い知ったことがある。
 人間は二種類に分けられるらしい。ブログを書く人と書かない人だ。
 Fゲーム関連のブログは増え、ブログリンクが設けられるまでになったにもかかわらず、更新頻度と内容でいえば僕のブログがダントツなのだ。一つのジャンルに対して二つのブログを持って、両方ともせっせと更新しているなんて、ちょっとない話ではないか。
 僕が優れているなんて話じゃない。全然そんなことはない。僕以上に能力のある人がたくさんいるはずだ。心当たりはある。だが能力ある人すべてがブログを書くわけではない。特にコンスタントに更新する意志が明確なのは未だ僕ひとりだけだ。
 僕もご覧の有様、はてなダイアリーを更新していない身分だから、ブログを書かない、書けない気持ちなんて十分に承知している。だからこそ思い知る。ブログを書く人と書かない人の二通りに分けられるのだと。両者を分かつのは執着だ。承認欲求という名のグロテスクな化け物。



 思い知ったといえば、もう一つ。
 よく読まれるブログを妬む者の存在だ。
 Fゲームの2chスレを覗くとブロガーへのヘイトを吐く人を見かける。
 僕のFゲームブログの黎明期には特に多かった。
 多いといっても本格的にアンチの立場にあったのは一人か二人で、その主犯格の扇動にのっかる形でディスっている人が少しいたというのが実情だろう。
 ディスの材料となる失言をやらかしてしまったのも大きかった。はてなで斧が投げられる光景を見知っていたはずなのに、あんなネット初心者みたいなポカをやらかすとは我ながら情けない。しかし人の噂もなんとやら。黙して自分を貫き通しているうちに火は消えた。
 今ではブログをやっている人が増えて味方も増え、誰も扇動されることがなく、主犯格が単独でヘイトを巻き散らかしているだけだ。
 あれほど過疎が進んだ狭い界隈でもアンチブロガーが現れるのだから、はてな界隈で祭りが絶えないのはもはや摂理であろう。




 さて、書きたいことはあらかた書けた。
 いいリハビリになった。
 このはてなダイアリーも月に一度は更新したい。
 自分の読みたいものを書くために。
 少なくとも『人生論ノート』はやりきらなきゃ。そのためのリハビリだ……でした。

 (久々すぎてダイアリー特有の行間が気持ち悪い)