抱腹絶倒のエッセイ

目白雑録 (朝日文庫 か 30-2)
金井 美恵子
朝日新聞社
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 金井美恵子の作品はどれも難解――というよりは読むという行為には読む対象に応じてそれなりの訓練を要するのであり(磨かれてもいない感性によって)好きなように読めばいいのだと無邪気にいっていられなくなるレベル――だが、この『目白雑録』と書いて「ひびのあれこれ」とルビをふっているエッセイは、金井美恵子らしい息の長い文章で書かれているにもかかわらずすこぶる読みやすい一冊だった。これほどリーダブルに書けるのであれば小説を書くときは普段よりも根を詰めて書いているのだろうかとふと思ったが、いけない、いけない、こんなことを書こうものなら「フン、ある種の緊張感を持たずに――それがどういった種のものかは今更いちいち口やかましく言わない、というか、言う必要もないと信じたい――書かれる小説なんてあるはずがない。そもそも、フン、なにさ、エッセイだったら気を抜いて書いているとでも、まさか本当に思っているのか」とでも指摘されてしまいかねないし、《せめて「エッセイ」と「私小説」の区別くらいつけられる文学的感性を養ってみれば?》と切り捨てられてしまうかもしれないので、ウッカリしたことは書けないのだが、まあ、なにぶんウッカリものの私だし、ここは僻地のブログなので、まあある程度は意図的にウッカリしちゃっても許されると信じたい、と腹黒く思う次第。
 なにはともあれ、小説じゃあない。エッセイなんです。
 
 で、このエッセイ、何が面白いかって、一にも二にも金井美恵子の毒舌が痛快なのだ。なんというか、野次馬となって金井美恵子の後ろについて「そーだ、そーだ!」と煽りたくなってしまう。
 作家や批評家や詩人を実名で名指ししてこきおろす――もとい、自分の著作に対するまったく読めていない批評へ正当な批判(と書いて反撃とでもルビをふるのが妥当か)を下す――その容赦のなさを目の当たりにすると、憧れずにいられない。
 そしてこき下ろされるのは、なんだかよくお目にかかる人たち、という点もまた本書の魅力。かの方々については文章を通じてしか知らないのだが、文壇なるものがあって、そこの人間関係が想像されて、文学界ってもしかして社交場なのかしらん、と失笑してしまう。
 
 正味、ストレス解消にもってこいの本書は、金井美恵子作品に触れてみたい方の準備運動にももってこいの一冊でもあるし、一度はその難解さに挫折した金井美恵子作品に再度挑む前のリハビリとしても使える一冊である。
 
 なお、本書には続編が出ている。その『目白雑録2』なのだが、帯の文句――損得抜き、実名批評でシュート!――がこれまた素晴らしい(笑) 「きらいなものはきらい、ダイレクトでシュート」としっかりとルビをふる遊び心*1。 「華麗なドリブラー金井美恵子が文壇・論壇(と書いてピッチと読む)を過激に駆け抜ける!!」と、ノリノリである

*1:ちなみに金井美恵子はサッカー観賞が趣味