無理難題

 じいさんばあさんにPC教えることが難しい。前提として不可能であることを、どう教えるべきか悩む。
 フォルダの階層構造やショートカットといった概念が、すでに許容を超えていて、三次元人に四次元を示そうとするようなもの。もっといえばコピー&ペーストも理解できない。してくれない。アイコンに合わせて、左クリック、コピーして、その後貼り付けすることはできるし、その手順をメモすることもできるが、そのとき何が起きているか分かっていない。そっくりそのまま同じものがもう一つできたことを、きっと今も理解していない。そりゃそうだ、現実にはそんなものはないのだ、叩けばビスケットの増えるポケットなんてどこにもないように。
 僕は画面右側のスクロールバーをドラッグして下に下にページを見ていくから、「画面を下に見ていって」と説明するが、祖父母は同じ現象を画面が上へ上へ流れていくことから「上にいく」と捉えているので、僕はもう鏡の世界に迷い込んだような気分になる。エット、オレガアイツデ、アイツガオレデ……?
 どう足掻いても電話で教えることができない。USBにファイルを一つバックアップさせるだけでも無理。いや、それがギリギリ可能かどうか瀬戸際のライン、といったところか。
 ちょうど、僕がテレビを作れないがチャンネル操作はリモコンで自在であるように、理解していなくても操作可能なレヴェルに落とし込まなければならない。そのためには下準備あるのみだ。たとえば年賀状は二年前から作っておいて、電話で指示ができるようにしておく。
 気を利かせたつもりで説明書をエクセルで作成したって駄目だ。見方を分かってくれない。エクセルのあのマス目が老人の目を惑わすらしい。エクセルを使える人たちは、あの縦と横の線を意識に容れないという芸当を、当たり前にこなしているのだと気づく。説明を動画でつくっても駄目だ。エクセルの場合でもそうだが、画面に現れる以上は、そこをクリックしようとする。張り付けられた単なる画像であるとか、動画の映像に過ぎないということが祖父母には分からない。そりゃそうだ、同じパソコンのディスプレイに映っているのだから。ということは、「年賀状を作成するアプリケーション」を立ち上げていないといけない、ということも分かっていない。
 
 
 
 分からないのは仕方がない。祖父母の「分からない」に触れていると、分かることの方が不思議に思えてくる。
 でも、もっと大切なことは、僕にちゃんと伝わっている。つまり、孫の声が聞きたくて、電話をかけてきたのだということ。
 この夏、会いに行けてなくてごめんよ。昨日、顔を見せようかと考えて、面倒くさくなってしまって、ごめんよ。