君が来ることを知っていた

 君がうちに来ることは、君の存在を認知したときから分かりきっていたんです。朝礼で社長が話してくれたときから僕には分かっていたんです。社長はいいました。幻のー(ではなくてー)、あー、究極のー、讃岐うどんとやらが、十個贈られてまいりました、えー、うち四つは、掃除のおばちゃんと、食堂で昼食を作ってくれている、あー、給食のおばちゃん(?)、に、あげることにします、残り六つは、あみだくじで決めたいと思います。僕は、そのときすでに君と手を繋いでいる気でいました。そのくらい身近に感じていたんです。
 あみだくじは総務のTさんが持ってきました。会議の真っ最中でしたが、社長があみだくじはまだ終わってへんのかーと急かしていたそうなので仕方がありません。会議に参加していたとある部門の主任は、あみだくじに参加できるのが朝礼に出ていた事務所の社員限定だったことで社長のことを非難していました。あのオッサン、アホか、一番こきつかわれてるのは現場の人間やんけ、という文句に相づちを打ちながら、僕はあみだくじに自分の名を連ねます。すでに名前の埋まっているところとまだ名前の埋まっていないところが織りなす空白の緩急には僕を誘う必然性がありました。また、ボールペンを走らせながら、僕の書いたところが当たりになるくらいの気でいたのも確かです。結果は昼過ぎに出ました。やっぱり君は僕の所へ来たがっていたんですね。内線で報告を受けた僕は、一流のシェフが宮廷の料理長に迎えられるような、しっくりとした収まりの良さを覚えました。こうでなくてはなりません。一流のシェフが煙突掃除夫に起用されるような日がやってくれば、一条の光も差さない闇に落ちたも同然といえましょう。僕は内線を切りながらしみじみと思いました。こうでなくてはならないのだと。
 
 
 
 君のことは翌朝にいただきましたね。ごまとショウガもまた凹とくれば凸とくるしかない必然のコラボレーションで味を引き締めてくれました。安いうどん(極端にいえばコンビニやスーパーで弁当として売っているようなうどん)はゴムのような弾力とある種の摩擦を特徴に持っていますが、君はいたって爽やかでしたね。ゴムとも粉ともほど遠い滑らかな白肌を僕の舌先で踊らせながらも、甘えることのない角の立った高貴な姿勢を崩そうとしなかった君に、またいつか会いたいものです。
 
 
 
 ちなみに、ここのうどんでした。製麺所の回し者かッ!という感じですが、アフィリエイトではありません(笑)
有)日の出製麺
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TEL 0877-46-3882 FAX 0877-46-0164
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 近所のスーパーで売ってた冷凍の讃岐うどんと比べて約1.5倍の値段かな〜。スーパーの冷凍のやつでも十分美味しいしなぁー。味が値段に正比例するから面白い。