同じポーズ

 日の昇らぬうちに出勤し、日が沈んでから退社する日々に現実を疑うが、それよりも信じがたいのは土曜日から日曜日に日付が変わるそのときについに仕事が終わって、神聖なる安息日が穢れることだ。日曜日は満ちた月のように一秒の欠落もなく安息日でなければならないというのに、タイムカードは零時を一分過ぎた時刻が印字される。帰宅、睡眠、起床ときて、床屋へ出かけ帰宅して昼食後即座に昼寝、気がつけば午後五時前……ゴゴゴ……時……前……? 月曜日は午前四時起床の予定だから日曜日は午後十時には就寝したい。午後十時まで約五時間……。笑うしかない。
 そんな欠損した休日を経て訪れた月曜の朝、僕は現場へと製品サンプルを回収しに出向く。日曜日も現場は稼働していて製品サンプルは山を築いていた。少女漫画を思い出す。ロッカーいっぱいのラブレター、紙袋に収まりきれないバレンタインデーチョコ。そんな幸せなもんじゃないけどね。
 今日は帰れないかもしれないと思うと倒錯して心は浮かれる。間違った幸福感で微笑んでみる。しかし身体は正直だ。月曜の朝から疲れ切って、右手は腰に、左手は製品サンプルを運ぶための手押しカートのバーに逆手で載せ、重心は右足に偏り左足は休めの配置。そうやって僕を仕事場である五階へ送ってくれる業務用エレベーターを待つ。
 ふっと、僕より前でエレベーターを待っている中国人の女の子と目が合う。互いに気まずく目を逸らす。エレベーターはなかなか降りてこない。そこで僕はまたふっと気がつく。彼女は僕と同じ姿勢をしていた。まったく同じ、腰に手をやった休めの姿勢。この娘さんも月曜の朝から気怠いんだろうな、と僕は考えたし、もしかしたらこの娘さんも後ろにいる日本人は月曜の朝は気怠いと思っているだろうな私のように、なんて考えているのじゃないかと思案する。
 無意識にとる同じポーズ。写しのようにそっくりな、言語になる以前の身体のサイン。他者の存在感が柔らかく明滅して僕を慰める。正直なこのサインを裏切りたいわけではないけれど、もう少し元気にしてみようかという気になって、漫画の台詞を心に灯す。
 カラ元気も元気のうちだ! そのうち本当の元気と取り替えればいい!(島本和彦