地球外生命体は宇宙(そら)にいればよかったのだよ

 ねえ、職場に出てこないでよ、うちは曲がりなりにも、いや曲がっちゃいないけどさ、食品のパッケージが生産量の過半数を占めている会社だよ、そこに君が混入したらどうなるか分かってる? 大変なことになるんだよ?
 ねえ、ちょっと、何拗ねてんの? そんなふうに触覚を動かしたら僕が逃げ出すとでも――ちょっとやめてよ気持ち悪いからさ――歩くのもナシだよちょっと――ねえ、君さ、なんでそんなに気味が悪いの? エイリアンでしょう、もう。火星辺りからやってきたんだろう、もう。
 え? 昆虫ならどれもエイリアンだろう、俺ばっかり造形を悪く言うのは差別だって? いやまあ、そりゃあね、昆虫の皆さんは本当に宇宙からやってきたのかもしれないってくらいだけどね、でも、分かっちゃいないな、やれやれだよ、まったく。いいかい、お前以外の皆さんはね、好きこのんで僕らの住まいに入ってきたりしないものなんだよ。たまに間違えてやってくるやつはいるよ?
 ティッシュペーパーの匂いに釣られてやってきたアリがいたな。でもあれはアリが馬鹿だからなんだよ。
 部屋に迷い込んだ蝉もいたな。彼と僕は一晩を同じ部屋で過ごしたんだ。真夏だから冷房の効いた部屋だよ。彼は時々震えて羽音を立てるんだけど僕には彼の居場所がよくわからなかった。でも翌朝、カーテンのところに見付けたよ。可哀想に、彼は凍り付いたみたいに動かなかった。でも引きはがそうとしても彼はカーテンにしっかりしがみついてた。無理にはがそうとすると手足がもげそうだったからぞうきんでくるんで引っ張ってやったよ。何となくそれが優しい引きはがし方に思えてさ。今考えると全然合理的じゃないかもしれないとは思うけどさ。なんだよ、怒っちゃいないさ、うるさいな! それでさ、ぞうきんの中で動かなくなった彼をベランダにぞうきんごと出しておいたら、数分後に羽ばたいて去っていったよ、彼は昼間になるとうちの庭で、人間様の部屋の中なんて迷い込むのでもなければ自ら入ったりするものかと叫んでたよ。いやまあ、彼じゃなく別のやつだったのかもしれないな、見分けがつかないから。
 あと、それから、カナブン、あいつはよく洗濯物にしがみついて室内に入ってくるんだ。君、お外に逃げてもいいんだよ、といってやっても慌てた素振りもなしでさ、その場に居座るけどさ、あれはお前みたいないけ好かないやつと違って、本当は外に出たがっているのに意地になってるだけなのさ、可愛いもんだろ。洗濯物から引きはがして外へ放り投げたら、放り出されちゃ仕方がねえっていってどっかいっちまうよ。
 ところが、お前と来たらどうだ、他人様の部屋に無遠慮に現れて。間違えて入ってきたというでもなし。自分の部屋のつもりでいるんだろう。こっちも慈悲ってもんがあるからベランダに追い出したりしてやるときもあるが、翌日になってもまだベランダにいるよな。不審者みたいに玄関の前をうろうろしていることもあるよな。そういうのは勘弁ならない。お前はそういった印象の悪さから他の皆さんより一等エイリアンに近いんだ。なんだい、猫が顔を掻いているみたいな雰囲気でひょっこり現れてさ、それでぶりっこしているつもりか。
 
 
 そこで僕は不良になった商品を掴みあげると思い切り叩き付けた。さらば、G。心で呟いて仕事を進めるが、いざ死骸を掃除しようと不良品を持ち上げるとあるはずの死体が忽然と消えていた。蘇生して逃げたのか、そもそも瞬間移動で躱していたのか。そのあとやつはまたひょっこりと僕の前に現れた。やあ、ここに食べ物はあるかね、といった風体で。ガムテープはいかがですか? 茶色のやつは動きがゆったりとしていたのでガムテープを押しつけることに成功した。ところが、Iフィールドでコーティングされたビグサムがビームを受け付けなかったように、やつには粘着が通用しなかったし、あれほどのっそりしていたくせに、マグネットコーティングを施したガンダムのように三倍速のシャアザクも真っ青の高速移動で逃げていった。
 以来、僕はやつと会っていないが、決着はいずれつくだろう。僕とやつが再び出会うことはすでに定められた事柄も同然だ。この地上もまた宇宙の一部に過ぎないのだから。めぐりあい宇宙(そら)。