いってもわからぬ馬鹿ばかりか!


 ――大学時代、研究室にて――



スリランカ人「これ臭いよネー」
四回生男「毎回たまらんわホンマ」
私「ふうん……、そうやね……、ちょっと、うっすら、臭ってくる感じ……」
四回生男「液体窒素冷たいし」
私「でも、あれやね、ちょっとだけいい匂い……」
スリランカ人 (゜Д ゜!!)
四回生男「いやいやいやいやいや、ありえへんから!」
スリランカ人「いい臭い!? それ○○くん鼻おかしいヨ?」
私「いや、そりゃ臭いですよ、でもそのなかに、こう、なにか間違えたらいい感じに香ってくるものが混じっているというか……」
スリランカ人「そんなのないよー」
私「いやあ、臭いんですけどね、臭いんですけど、あれに似てるじゃないですか、あれ……、給食に出てきた冷凍ミカン!」
四回生男「冷凍ミカン――てそもそも臭いあったんか?」
私「臭いっていうか風味? 冷たくて味がしない果肉が咀嚼される中で果肉を包む薄皮がやけに強度を持っていて訴えてくる無常観というか、ほのかな甘み」
スリランカ人 (゜Д ゜!!)
スリランカ人 「甘みィ?」
四回生男「そもそも給食に冷凍ミカンがでるってええなあ、そんなんでたことないわ」
私「ええっ? 冷凍ミカンが? 給食時の冷凍ミカン未体験?」
スリランカ人「やっぱり鼻おかしいヨ、病院へいかないと」
私 (そうだな、やっぱり、本当は臭いんだろうな、臭いはず……)
私 (深呼吸……)
私「やっぱり冷凍ミカンの懐かしい風味が……」
四回生男「カモン! こっちこい! 傍で嗅いでみ!」
私「それしたら悲鳴を上げるほど臭いがな」




 結局、分かってもらえなかった。
 みんな神経質というか、異臭に対する危機感が強いというか、不愉快な対象に注意を注ぐことで感覚が裏返っていくあの倒錯感へのダイヴが足りていないというか。
 メルカプトエタノールは適切な距離を置けば冷凍ミカンの臭いがする! 誰か賛同者はいませんか?




Wikipedia「常温では無色透明の液体で、特異な不快臭を持つ。」