青葉立つ 汗したたりて 膝笑う
はじめに
諸君、夏であります!
世間ではとうに夏の到来を堪能していたのかも知れませんが、私はまだとんと夏を感じておりませんでした。
工場勤務では蝉の鳴き声もどこか遠く、日差しも強いのかどうかよく分からなかったのです。夜、蒸し暑く眠りにくいくらいでは夏の実感にはほど遠いのであります。
本来夏というものは私の頬をぶつものなのです。もっとぶって下さいましと哀願したくなる存在、それが夏でなくてなんでしょう。
盆がやってきてやっと休みが取れた今日、早速山登りにいってまいりました。
金剛山へ
登るのは毎度お馴染み、金剛山。
私が山を好きなのは - 備忘録の集積でのウルトラマン&バルタン星人のコラボが与えた衝撃も半年前のこととなりました。
山へ向かう途中から私の夏は始まりました。山のうねった細い道とカーブミラーが腰のくびれた美女すらもカボチャか大根に変えてしまうほど圧倒的な美を誇って私の前に差し出されていました。一つ一つのコーナーが計算し尽くされた芸術品のように、しかし当たり前の顔をしてそこかしこにあるというのは理解を超えていて私の脳髄はたちまち夢心地になりました。おきまりのまん丸のカーブミラーは私になど注意を払わず遠くを見つめていまして、秋波を送っているのではないかと勘ぐってしまいます。ときに四角のカーブミラーがあって真夏の朝のぎらりとした閃光を心に感じました。木々は道路に枝葉を傾けて屋根のように空を覆い私を歓迎していました。
登山
冬以来の念願の登山です。
「登山」とはいいましても、私の中では「山登り」のイメージの方が強いくらいです。それほどに私は素人であり、それほどに金剛山はカジュアルな山なのです。
朝は曇っていて、雨が降りそうで降らない曖昧な天気でした。山にはいると曇り空が見えずとも雰囲気は灰色です。
最初のうちは沢に並行している経路を登りました。ときに沢を跨いで反対側へ移らねばなりません。水面から突出した岩を踏んで素早く超えます。この辺りの景色は垂涎ものです。誇張表現ではなく、私の口内は唾液で満ちていました。せせらぎと、道があるといえばあるし、ないといえばないこの辺りの風景が特に山らしくていいのです。
川に沿って歩くことに変わりはありませんが登山ルートは高さを増していきます。木が倒れているのはよくあることで、潜るか跨ぐかして攻略します。
でましたね、垂涎もの。今回は誇張表現です。
いい感じの山道です。
いい感じすぎてつまらないですね。
登っているうちに雲行きが怪しくなっていきました。
ここまで来ると残すは三割か四割がいいところ。久々の登山ですぐにばてるかと思っていましたが意外に楽でした。が、ここからは息切れしっぱなしでした。立ち止まると汗で湿ったシャツが冷たくなります。疲れるほど苦痛から脱しようとして足が速くなってしまう癖が出てしまい、同伴した母を置き去りにしては休息して追いつくのを待ちました。
登るというよりは重心を操ってうまく身体を騙すような感じでした。
そのうち霧が出てきました。それとも雲なのでしょうか。遠くから金剛山を見れば靄がかかっていたはずです。
山の宝石と称しても過言ではない蜘蛛が見られるのですが、今回は皆目見つかりませんでした。秋に多く見られるのだったかも知れません。(連中は何を食うのだろうと思っていると蟻を捕まえて運んでいたやつに出くわしたのは秋だったかしら……? ううん)
登りのピークです。ここからの傾斜は極めて甘め。
風で木が揺れて雫が雨のごとく落ちてきました。地面はぬかるんでいました。
ちなみに写真の奥へ道が続いていますが、そちらは通ったことがありません。私は写真の左からやってきて、写真の奥とは反対側へ登山を続けます。
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頂上に大勢の人がいる場合は、この木を過ぎると声が聞こえてきます。
なんとなく冬と比較したくなったので画像張っておきます。
ゴール
頂上に到達し、スタンプを押してもらいました。初めて登り始めた頃はスタンプなど押してもらわなかったので*1、スタンプの記録上は四度目の到来となっています。
店でおでんとコーヒーフロートを頼みました。こんな組み合わせで注文する阿呆は私をおいて他にいないでしょう。こういう場でのおでんは美味しいのが通例なのですが、今回は例外でした。やけに硬く、こんにゃくの食感が、これはレトルトのおでんだと教えてくれました。この密告者はそれでも美味しかったので偉大です。他はタマゴが美味しかったのですが、おでんはもう二度と頼まないと決めました*2。通例といえば、こういった場での物価の高さはならわし通りです。
登山が財布に優しい趣味だと思っていたのもはじめの頃だけです。登った自分にご褒美をあげたくなるのは致し方ないことですね。
下山
登ってしまえばもう用済み。さっさと下山してしまいます。
見晴らしの良い場所もあるのですがあいにくの曇り空。まあ、晴れていても黄砂のためか霞んでしまっていまいち情緒に浸れないのが定めの金剛山です。
下山途中に空が晴れてきました。
すっかり晴れて、緑が立ち上がってきました。私はよく色彩豊かな緑を「立ち上がってくる」と表現してしまうのですが、光を返して眩く燃え立つ様を見れば万人が直感的に理解してくれると信じています。
写真の場所では毎回「これ、どこを通れと言うんだ」と呟いてしまいます。登りはいいのですが、下るときはロープを頼りにせざるを得ません。
ここは通過するたびに削れてしまう場所です。いつかすり減ってなくなってしまうだろうと思って、もう二年経ちますがまだ通れました。